大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和45年(行ク)29号 決定

申立人(原告) 桜井宗五郎

(被告) 大阪府公安委員会

主文

申立人(原告)と被告大阪府公安委員会との間における、「原告の昭和四五年三月一二日付集団示威運動許可申請に対し、被告が同月一三日付でした不許可処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」

または、

「原告の昭和四五年三月一二日付集団示威運動許可申請に対し、被告が同月一三日付でした不許可処分は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める訴えを、申立人(原告)と被告大阪府との間における、

「被告は原告に対し、金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年三月一五日より支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決、ならびに仮執行の宣言を求める訴えに変更することを許可する。

理由

本件申立ての理由の要旨は、

「一、申立人(原告、以下単に原告という)は、昭和四五年三月一四日、当裁判所に対し、大阪府公安委員会を被告として、同被告が、申立人の同月一二日付集団示威運動許可申請に対し、同月一三日付でなした不許可処分の無効確認、またはその取消しを求める訴えを提起し(当裁判所昭和四五年(行ウ)一九号)、右訴訟は現在当裁判所において係属審理中である。

二、しかし、右許可申請は、同月一五日実施の集団示威運動のためのものであつたところ、右集団示威運動の実施日はすでに経過してしまつているので、このような場合、本件不許可処分の無効確認、またはその取消しを求める本件訴えは、その利益を欠く不適法な訴えであると判断されるおそれがある。

三、そこで、原告としては、本件訴訟を、被告大阪府公安委員会のなした本件不許可処分に係る事務の帰属主体である大阪府を相手どり、原告が違法かつ不当な本件不許可処分によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料として、金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年三月一五日より支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める訴えに変更するため、本件申立てに及んだ。」

というのであり、

これに対する、被告大阪府公安委員会、および被告となるべき者大阪府の各意見の要旨は、

「本件申立てにおいては、行政事件訴訟法二一条一項に規定されている、訴えの変更をすることが相当であるときという要件が具備されていない。

即ち、本件不許可処分の無効確認またはその取消しを求める本件訴訟は、昭和四五年八月六日に第一回口頭弁論が開かれたものの、当日は、原告が訴状を陳述し、被告大阪府公安委員会が訴えの却下を求める答弁書を陳述したのみであり、その後同年一〇月二日に本件訴えの変更の申立てがなされたのであるから、本件訴訟につき、訴えの変更を許すことによつて利用することができる訴訟係属上の効果や訴訟資料は、全く存在しないのである。したがつて、このような場合には、行政事件訴訟法二一条に基づく訴えの変更を求める利益は認められないのであり、訴えの変更を許す相当性はないとみるべきである。」

というのである。

よって、判断するに、本件記録によれば、原告は、安保万博紛砕共闘会議の代表委員であるが、同会議に結集している各団体の所属員を中心として、安保万博体制反対の趣旨を広く内外の人々に訴えるため、昭和四五年三月一五日の万国博公開初日に、万国博会場周辺において集団示威運動をなす計画を立て、同月一二日被告大阪府公安委員会に対し、右集団示威運動のための許可申請をしたところ、同月一三日同被告より右申請に対して不許可処分がなされたので、同月一四日当裁判所に対し、本件不許可処分の無効確認またはその取消しを求めるため、訴えを提起し、右訴訟は当裁判所昭和四五年(行ウ)第一九号行政処分無効確認等請求事件として、現在当裁判所に係属審理中であること、本件訴訟においては、第一回口頭弁論期日が昭和四五年五月一四日と指定されたが、同期日には、原告が出頭せず、被告代理人も出頭したものの、弁論をなさずして退廷し、同年八月六日の第二回口頭弁論期日には、原告代理人および被告代理人各出頭の上、原告代理人より訴状の、また被告代理人より答弁書の各陳述がなされたが、その後同年一〇月二日に至つて、未だ証拠調べがなされていない段階で、本件訴えの変更の申立てがなされたこと、原告は訴状に基づき、本件不許可処分に付着すると主張する瑕疵について、具体的かつ詳細な主張をしているが、被告大阪府公安委員会はその答弁書において、集団示威運動の実施日がすでに経過していて、訴えの利益を欠くことを理由に、本件訴えの却下を求めたにすぎないこと、以上の事実を認めることができる。

ところで、原告の集団示威運動許可申請に対してなされた被告大阪府公安委員会の不許可処分が、大阪府の固有の事務であることは、地方自治法二条六項、一八〇条の二、一八〇条の九第三項、警察法三八条等の諸規定から明らかなところであり、また、大阪府公安委員会を被告として本件不許可処分の無効確認またはその取消しを求める訴えも、大阪府を被告とし本件不許可処分の違法不当を理由に慰藉料の支払いを求める訴えも、等しく本件不許可処分に付着する瑕疵の存在の有無を争点とするものであるから、右二つの訴えは相互に関連しており、その請求の基礎に変更がないことも明白である。そして、前記認定事実によれば、原告と被告大阪府公安委員会との間における本件訴訟においては、未だ調拠調べを施行する段階に至つていないので、証拠資料としては何も存在していないとはいえ、原告は訴状を陳述したことによつて、本件不許可処分に付着すると主張する瑕疵について、具体的かつ詳細な主張をしているのであるから、これを訴訟資料として変更後の訴えに承継する利益は、ひとり原告のみならず、裁判所もまたこれを有しているのである。

そうすると、本件の場合においては、本件訴訟を、原告と大阪府との間における損害賠償請求に変更する相当性が存するものと解せられるから、行政事件訴訟法三八条一項、二一条一項により、原告の本件申立てを許容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 日野達蔵 喜多村治雄 仙波厚)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例